東京大学素粒子物理国際研究センターでは、来る11月5・6日の2日間、 LEPシンポジウムBeyond the Electroweak Scale を東京大学山上会館にて開催します。

欧州原子核研究機構(CERN)に建設された世界最大の電子・陽電子衝突型加速器LEP (Large Electron Positron Collider)は、1989年に初めての衝突を記録して以来、 エネルギーフロンティアでの素粒子物理研究の中心として、10年以上にわたって稼動 を続けてきました。東京大学を中心とする日本の研究者は、LEPの計画当初から 測定器の設計・建設から物理解析にいたるまで、OPAL実験グループの中核となって 数多くの重要な研究成果をあげてきました。 LEPの成果は大きく2つに分けられます。
(1)未知の最高エネルギーにおいて、新粒子・新現象を徹底探索した。
(2)ゲージボソンの精密測定により、ゲージ相互作用を検証し、確立した。

新粒子としては、素粒子質量の源であるヒッグス粒子が最も重要です。ヒッグス粒子 の探索はこれまでLEPの独壇場であり、徹底的な探索の結果、その質量が114.1GeVより 重いことを決定しました。また、標準理論を越える理論としてもっとも有望である 超対称性理論が予言する様々な粒子についても探索し、発見には至りませんでしたが、 宇宙の暗黒物質の候補であるニュートラリーノが36GeVより重いことが分かりました。

一方、ゲージボソンの精密測定では、軽いニュートリノが3つしかないことを決定し、 また輻射補正の効果まで含めて精密に検証を行うことにより、トップクォークの質量 をその発見に先駆けて正しく予言しました。これらによりゲージ理論が確立し、ゲージ 理論の枠組みを作ったG.t'HooftとM.J.G.Veltmanが1999年にノーベル賞を受賞しまし た。現在ではさらに、他の実験結果とあわせて、ヒッグス粒子がおよそ200GeVより 軽いことを予言しています。また、ゲージ相互作用が正確に測られたことにより、 超対称性がある場合には、超高エネルギーにおいて3つの相互作用が自然に統一され 得ることも分かりました。

LEPは昨年11月に運転を終了し、現在最終結果をまとめるべく、全データの 解析が精力的に行われています。

このシンポジウムの目的は、これらLEPの研究成果を基にして、21世紀の素粒子物理が 一体どのように展開していくのか、展望してみようというものです。ここでは、LEPで の研究を振り返り、LEPによって示唆された「素粒子の3世代」、「軽いヒッグス粒子」 や「力の大統一」などがLHCやJLCなどの将来計画によってどのように発展していくの か、またニュートリノ振動の物理や宇宙論とはどう結びついていくのか、参加者の 皆さんと一緒に考えていきたいと思います。